不安障害・PTSD

不安障害とは

不安障害とは、特定の状況や出来事に対して過剰な不安や恐怖を感じる病気です。軽い不安は誰にでもありますが、不安障害ではその不安が長期間にわたり、心身に大きな影響を与えます。例えば「将来への漠然とした不安」「何か悪いことが起きそう」「心臓がドキドキして落ち着かない」といった不安や恐怖が長期間続き、日常生活に支障をきたす状態です。この不安には多くの原因が関わっており、人それぞれ異なる要因が重なり合って発症します。日常的に過度な心配や不安を感じるため、仕事や人間関係に支障をきたすこともあります。

当院では、土日祝日、夜の時間帯など、患者さんのご希望に合わせて診察させていただきますので、日常生活に支障をきたすまえに、お気軽にご相談ください。

不安障害の種類と症状

不安障害にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる特徴や症状を持ちます。

不安障害の種類と症状

日常生活のあらゆることについて、過剰な不安や心配が長期間続く状態です。特に、将来の出来事や健康、人間関係、仕事に対する漠然とした不安が特徴です。

主な症状
  • 過度な心配が続く(6か月以上)
  • 落ち着かない、イライラしやすい
  • 筋肉の緊張や疲労感
  • 集中力の低下や不眠

パニック障害

突然、強い恐怖や不安に襲われ、動悸や息苦しさなどの身体的症状が急激に現れます。再び発作が起こるのではないかという「予期不安」により、生活に支障をきたすことがあります。

主な症状
  • 突然の動悸、息切れ、発汗
  • めまい、震え、死の恐怖を感じる
  • 再発への強い不安(予期不安)
  • 人混みや閉鎖的な空間を避ける行動

パニック障害について

社交不安障害(SAD)

人前で話したり、注目を浴びたりする状況に強い不安や恐怖を感じ、日常生活に影響を与える状態です。特に、「恥をかく」「人から悪く思われる」といった恐れが強くなります。

主な症状
  • 人前での発表や会話に強い緊張
  • 顔が赤くなる、手の震え、発汗
  • 他人の視線が怖いと感じる
  • 人との交流を避ける

社交不安障害について

強迫性障害(OCD)

自分の意思とは関係なく、不安を引き起こす「強迫観念」と、それを和らげるために繰り返してしまう「強迫行為」が特徴です。例えば、「手が汚れているのでは」という不安から何度も手を洗うなどが見られます。

主な症状
  • 繰り返し手を洗う、確認する(戸締り、火の元など)
  • 汚染や病気への過度な恐れ
  • 数を数える、物を一定の順序に並べる
  • 頭から離れない不快な考え(暴力的・不道徳な考え)

強迫性障害(OCD)について

恐怖症(特定の恐怖症)

特定のものや状況に対して、極端な恐怖や不安を感じる状態です。例えば、高所、閉所、動物、雷、飛行機などが恐怖の対象となります。

主な症状
  • 特定の対象や状況に強い恐怖を感じる
  • の対象を避ける行動をとる
  • 恐怖を感じると動悸や発汗が起こる

分離不安障害

家族や大切な人と離れることに対して過度な不安を感じる状態です。特に子どもに多く見られますが、大人にも発症することがあります。

主な症状
  • 離れることへの強い恐れや不安
  • 学校や職場に行きたがらない
  • 悪夢や身体症状(頭痛、腹痛)が現れる
  • 大切な人に何か起こるのではないかという心配

選択性緘黙(せんたくせいかんもく)

特定の状況(学校、職場など)で話すことができなくなる障害です。家庭では普通に話せるのに、特定の環境では話せなくなるのが特徴です。主に幼児期に発症します。

主な症状
  • 学校や公的な場で話すことができない
  • 人前で話すことに極度の不安を感じる
  • 身振りや表情だけで意思を伝える

これらの不安障害は、それぞれ異なる特徴がありますが、共通して「過剰な不安や恐怖」が生活の質を低下させる点が重要です。適切な治療を受けることで、不安を和らげ、日常生活をより快適に過ごすことが可能です。

不安障害の原因

不安障害は、将来への漠然とした不安や恐怖にとらわれ、心と体にさまざまな症状が現れる状態です。その原因は一つではなく、いくつもの要因が複雑に絡み合い、不安を引き起こしています。

1.脳内の神経伝達物質のバランスの乱れ

私たちの脳は、感情をコントロールするために神経伝達物質を使っています。特に、リラックスに関わる「セロトニン」や、ストレスに反応する「ノルアドレナリン」、脳の報酬系に影響する「ドーパミン」が重要です。これらのバランスが崩れると、ストレスに過敏に反応し、不安を感じやすくなります。セロトニンが不足すると、心が落ち着かずに小さな出来事にも過剰に反応します。ノルアドレナリンが過剰に分泌されると、心臓がドキドキして体が常に警戒モードになります。たとえば、突然心拍数が上がり、何か危険なことが起こりそうな感覚に襲われるパニック発作も、このメカニズムが関わっています。

2.遺伝的な要因

不安障害には、遺伝的な影響が関わることもあります。家族に不安障害やうつ病の人がいる場合、同じように不安を感じやすい体質を引き継いでいる可能性があります。これは、脳の感情をコントロールする部分が遺伝的に敏感になっているためと考えられています。たとえば、親が心配性で小さなことにも過剰に反応する姿を見て育つと、子どもも同じようにストレスに弱くなることがあります。このように、家族の影響は遺伝だけでなく、環境的な要因としても作用します。

3.ストレスやトラウマ

過去のつらい出来事や日常的なストレスが、不安障害の大きな引き金になることがあります。過去に事故や災害、いじめ、虐待などの強いショックを経験した場合、その記憶が脳に深く刻まれ、同じような状況に遭遇すると強い不安が再発することがあります。これを「トラウマ」と呼び、PTSD(心的外傷後ストレス障害)として知られています。慢性的なストレスも影響します。たとえば、仕事のプレッシャーが続くことで体と心が疲れ果て、「また失敗するのではないか」という恐れが日常に広がってしまいます。このような環境的な要因が積み重なることで、脳が過剰にストレス反応を示し、不安が慢性化することがあります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)へ

過去の体験や恐怖心の条件付け

不安は過去の体験によって「条件付け」されることがあります。これは、過去に怖い思いをした状況や場所に再び遭遇すると、自動的に不安が引き起こされる現象です。たとえば、過去にエレベーターに閉じ込められた人が、その後エレベーターに乗るたびに心拍数が上がり、不安で息苦しくなるといったケースがあります。このような反応は、脳が「この状況は危険だ」と記憶しているために起こります。また、プレゼンで失敗した経験がある人が、次のプレゼン前に極度の緊張や不安を感じるのも同じ原理です。予防策として、過去のトラウマを処理するためのセラピーを受けることが有効です。

4.考え方や性格の影響

不安障害になりやすい人には、特有の考え方や性格が見られることがあります。たとえば、完璧主義の人は「失敗してはいけない」「すべてうまくやらなければならない」という思い込みが強いため、ちょっとしたミスでも大きな不安にとらわれてしまいます。また、物事の悪い面ばかりに目が行くネガティブ思考の人も、「最悪の結果になるかもしれない」という考えが先行し、不安が増幅されやすくなります。たとえば、試験前に「絶対に失敗する」と思い込んでしまい、前日の夜に眠れなくなったり、試験中に動悸が激しくなったりといった状況が典型的です。予防策として、リラクゼーション技法やポジティブな自己対話を試みることが有効です。

5.身体的な原因や病気

不安障害は、体の病気やホルモンバランスの乱れによって引き起こされることもあります。代表的なものに、甲状腺機能亢進症があります。これは甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、心拍数が上がり、不安感や動悸が現れます。また、更年期障害によるホルモンバランスの乱れも、不安を引き起こす要因の一つです。低血糖の状態になると、脳が危険信号を発し、不安感やパニックを感じることがあります。たとえば、何もしていないのに急に心臓がバクバクしたり、息苦しさを感じたりするときには、こうした身体的な要因が関わっているかもしれません。専門医に相談し、身体的な原因を特定することが重要です。

6.薬やカフェイン、アルコールの影響

普段の生活で何気なく摂取するものが、不安を引き起こすこともあります。カフェインは交感神経を刺激し、心拍数を上げてしまうため、不安を感じやすくなります。特にコーヒーやエナジードリンクを大量に飲むと、体が興奮状態になり、胸のドキドキ感や手の震えが強くなります。また、アルコールは一時的にはリラックス効果をもたらしますが、長期的には睡眠の質を下げ、朝起きたときに不安感が増すことがあります。一部の薬も、副作用として不安を悪化させることがあり、特に興奮剤や一部のステロイド薬は注意が必要です。たとえば、受験勉強中にエナジードリンクを飲みすぎた結果、寝るときに体が緊張しすぎて不安が強まり、眠れなくなるケースもあります。予防策として、カフェインやアルコールの摂取を控えることが推奨されます。

不安障害の診断と治療

不安障害の診断は、主に精神科や心療内科で行われます。診断基準には、ICD-10やDSM-5が用いられます。これらの基準に基づいて、不安の症状が持続しているかどうかを確認します。具体的には、心配や緊張感、集中力の低下、筋肉の緊張などが見られるかを評価します。

不安障害の治療には、以下の方法があります。

  • 薬物療法: ベンゾジアゼピン系やSSRIが使用されます。ベンゾジアゼピン系は即効性がありますが、依存のリスクがあるため短期間に限定されます。SSRIは長期的な効果が期待できます。
  • 認知行動療法(CBT): 不安を引き起こす思考や行動を修正するための心理療法です。ネガティブな思考をポジティブなものに変えることで、不安を軽減します。
  • リラクゼーション法: 腹式呼吸や誘導イメージ法、深呼吸法などが自宅で実践可能です。これらはリラックス効果があり、不安を和らげるのに役立ちます

不安障害の原因は、脳の神経バランスや遺伝、過去のトラウマ、性格、生活習慣、身体的な要因など、さまざまなものが複雑に絡み合っています。そのため、「自分の不安はどこから来ているのか?」を知ることが、治療の第一歩となります。もし、不安が長く続き日常生活に支障をきたしている場合は、専門医に相談することで原因を特定し、適切な治療を受けることが大切です。正しい対処によって、多くの人が不安から解放され、日常生活を取り戻しています。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)とは、過去に経験したつらい出来事やショックな体験が心に深い傷となり、その後も長い間、不安や恐怖、悪夢などに悩まされる状態です。戦争や災害、交通事故、暴力、虐待など、命に関わるような強いストレスを受けた人に多く見られますが、どんな出来事でも、その人にとって「強烈で耐え難い」と感じた体験があれば、誰にでも起こる可能性があります。

PTSDを放置するとどうなる?

PTSDを放置すると、心と体の負担が積み重なり、日常生活にさまざまな悪影響を及ぼします。人間関係が悪化したり、仕事に集中できなくなったりするだけでなく、うつ病や不安障害、アルコール依存症などの二次的な問題を引き起こすことがあります。また、強いストレスが長期間続くことで、高血圧や心疾患といった身体的な病気につながることもあります。そのため、早期の対処がとても重要です。

どんな出来事がPTSDを引き起こすの?

PTSDのきっかけとなる体験には、次のようなものがあります

  • 災害:地震や津波、火災などで命の危険を感じた
  • 事故:自動車事故や重い怪我を負った経験
  • 暴力や犯罪:暴行や性暴力、強盗に遭った体験
  • 戦争やテロ:戦地に行った兵士や、テロ現場に居合わせた人
  • 虐待:子どもの頃に受けた身体的・精神的な虐待
  • 大切な人の死:突然の事故や病気で家族や友人を失った

これらの出来事は、直接自分が被害を受けた場合だけでなく、目撃したり身近な人が被害を受けたりした場合にもPTSDを引き起こすことがあります。

PTSDの主な症状

PTSDの症状は、大きく分けて次の3つの特徴があります。

1.フラッシュバック(再体験症状)

トラウマとなった出来事を、頭の中で何度も思い出してしまい、あたかもその出来事が今まさに目の前で起こっているかのように感じることがあります。音や匂い、景色などがその時の記憶を刺激し、パニックになったり強い恐怖に襲われたりすることがあります。たとえば、交通事故に遭った人が、似たような道路を通るとその時の感覚がよみがえり、動悸や息苦しさを感じることがあります。また、戦争体験者が銃声や爆発音を聞くとフラッシュバックを起こすこともあります。

2.過覚醒状態(過敏な状態)

常に心が緊張しているような状態が続きます。音や物事に対して過敏に反応し、少しの物音にも驚いたり、眠れなくなったりします。また、集中力が低下し、イライラしやすくなることもあります。たとえば、夜間に小さな音を聞くだけで、泥棒が入ったのではないかと恐れて眠れなくなることがあります。

3.回避行動(トラウマの記憶を避けようとする)

トラウマを思い出すのがつらいために、その体験に関連する場所や人、物事を避ける行動をとるようになります。たとえば、交通事故を思い出すのが怖くて、車に乗れなくなったり、事故現場を通る道を避けたりするようになります。また、関連する話題に触れられるのを嫌がったり、感情を閉じ込めてしまう人もいます。

PTSDの診断と治療

PTSDの診断は、トラウマ体験後の症状を評価することで行われます。具体的には、侵入(再体験)、過覚醒、回避、認知と気分の陰性変化が見られるかを確認します。

PTSDの治療には、以下の方法があります。

  • 薬物療法: SSRIや抗不安薬が使用されます。これらは症状の緩和に効果的ですが、対症療法であるため心理療法と併用されることが多いです。
  • 認知行動療法(CBT): トラウマ体験に対する考え方を修正し、不安を軽減します。エクスポージャー療法も行われます。
  • EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法): トラウマ体験を思い出しながら眼球運動を行い、記憶の再処理を促進します。

どちらの障害も、早期の診断と治療が重要です。適切な治療を受けることで、多くの人が症状を改善し、日常生活を取り戻しています。

PTSDの回復には、無理に急ぐ必要はありません。トラウマの体験を思い出すこと自体が苦しいため、治療はゆっくりと時間をかけて進めていくのが一般的です。また、家族や友人など、信頼できる人の支えが非常に重要です。孤立しないように、気軽に話せる環境を作ることも回復の助けになります。必要であれば専門の医師に相談し、安心して治療に取り組むことが最も大切です。PTSDは適切な治療を受けることで、多くの人が少しずつ不安や恐怖から解放され、再び日常生活を取り戻しています。焦らず、自分のペースで進んでいきましょう。